モノの非価格競争力その6 他にないモノを売る米屋
①商品は店の銘柄で売る
S米穀店は一見すると高級和菓子店と見間違うようなおしゃれな店でした。店に入ると和菓子の代わりに袋詰めのお米が陳列されています。その陳列を見て「これは違うな」と直感しました。
陳列されているすべての袋にはコシヒカリ、ササニシキのような産地銘柄名ではなく、この店のお名前「米屋S」の字が大きく書かれていたのです。要するにここで売っているものは米一般でもなく、産地の生産物としての米でもなく、この店でしか売っていない他にないものとして売られているのです。いわゆる店頭ブレンド米の特徴を前面に出し非価格競争の世界をつくっていたのです。
「話には聞きますが実際に見たのは初めてです」と筆者、さっそく「ブレンド米の評判はどうですか」と聞くと、「食べてもらってそのよさを分かってもらう以外ありません」と言いながらも、「必ず分かってもらえる」との自信が口調ににじみ出ています。
「米というものは生き物で産地によっても一軒一軒の農家、田んぼによっても毎年出来が違います。それは気温の具合・日照りの具合・それが何月かによっても変わります。私たちは産地ごとのさらに細かく農家ごとのその年の出来をチェックしています。農家ごとの過去の記録も長年持っています。もちろん自分のところだけではできません。何人かの米屋が手分けして情報を集めているのです。そうして今年はどの産地のどの農家の米を中心にブレンドするかを決めているのです」ということです。
ブレンド米は日本語では混米と訳され、「純粋好き、生一本」の日本では「混ぜ物をする」悪いイメージがこびりつき、街の米屋の機能が奪われてしまう馬鹿なことが起こりました。ブレンドとは調合のことだと思います。薬でも調合するのは当たり前、珈琲でも酸っぱい豆ばかり、苦い豆ばかりでは味が単調で、これらを組み合わせてこそおいしい味になるのです。こんな当たり前のことを見失った日本の米文化の退廃が毎日食べるお米という日本文化の中心で起こり、米屋さんの機能が忘れられ、それをよいことに米自由化がすすめられ街の米屋が崩壊させられたのです。
米についても調合の大事さは変わりありません。甘みのある品種、粘りのある品種、水気の多い品種、味の濃い品種などいろいろあって当たり前で、それをどう調合するかが米屋さんの役割なのです。そのことを消費者に分かってもらう努力を続け、モノでの非価格競争力の土俵をつくることに成功しているのがS米穀店の姿だったのです。
次回・・・②なりわいの商いの役割を生かす