人の非価格競争力 その4 マンパワーはガッツのもう一例
今月会ったもうひとりからも中小業者の経営の原点を教わりました。この工場はどこにでもある金型工場です。経営者親子プラス2人の職人で、主にゴム製品をつくる金型の受注生産をしています。受注生産の下請けだけでは先がないと、自社の金型で油圧・空気圧用のゴムパッキングとOリングの製造販売に乗り出しました。これがうまくいき従業員も30人を超すまでの企業規模に発展していきます。しかしこの会社の原点はなんといっても金型生産です。金型生産での非価格競争力は、なりわい経営に多いガッツあるマンパワーにあります。取引先がこの会社に仕事をだすのは納期に絶対に責任を持ち、製品を相手が納得するまで仕上げる信用力にあります。そのためにはどんな無理な注文にも応える『相手の立場に立った』やる気・ガッツが客を引き寄せます。
筆者が訪問したのは金曜日ですが、この日も月曜に船がでるから、残業代や休日出勤費用は出すから(これは当然断ったようです)、土日に間に合わせて欲しいとの無茶な注文があり、その体制を組んでおられました。客があってのやりがいだからと従業員も当てにされることを喜んでいます。少ない人数のうちはそうでも、30人になってその体制が組めますかと聞くと、工場は大きくなっても原点は変わらないことをみんな理解していると言います。そのために会計を含めてあらゆる情報を従業員に公開し風通しをよくして、家族的ななりわい経営のよさである相手の立場に立ったガッツ・頑張りの重要性を強調しておられました。
さて自社製品の製造販売ですが、ゴムの部品加工には困難が多いのです。ゴムは温度で寸法が変わり、そのため金型の製造にも気を使います。不都合だとすぐに手直しが必要で、そのために自社金型が強みになります。その上ゴムの材質自身が日進月歩で研究が欠かせません。製品となるとコスト競争・価格競争も避けられません。そのため、このたび労賃の安い中国に自社専門の金型工場を出す予定だそうです。企業化すれば、たちまちカネの競争に巻き込まれる典型です。前日に中国から帰られた専務によると、もう中国から撤退する企業ばかりで、今から行く人は珍しいと言いながら、自社製品を持つためにコスト競争をせざるを得ない事情を語られました。
次回・・・モノの非価格競争力 その3 店の演出