まず、地域の個性を知る
よく、地域づくりの秘訣は何ですかと質問されることがあります。どうやら、先進的な地域づくりの話を聞いて、自分の地域でも効果のある『特効薬』を知りたいという人が多いようです。
けれども、残念ながらそのような『特効薬』はありません。人間の体と同じように、地域にも個性があります。その個性を無視して『特効薬』と処方したとしても、副作用によってかえって症状が悪化することになりかねません。これは、戦後日本の地域開発政策の失敗を見れば明らかです。『大型プロジェクトや企業を誘致することで地域は活性化します』というカンフル剤は、地域の持続的発展につながらなかったばかりか、今や多くの地域で地域づくりの大きな障害となっているのです。
地位づくりをはじめるには、病気を治すのと同様、地域経済や地域社会がなぜ衰退し、疲弊しているのか、何よりもその原因を探ることが先決です。しかも、私たちの地域での暮らしは、日本経済や世界経済の動き、国や地方自治体の動きと密接に絡んでいます。そのような外部環境との関係で、自分たちの地域はどのような位置にあり、いかなる個性をもっており、そのためどのような問題に直面しているかを探ることが必要になります。
地域の個性というのは、まず自然条件によって規定されています。地形、高度、気候、水流や水質、土壌条件などは、その地域の植生や自然から得られる農林水産物の質や量を決める物質的要素となります。また、その自然とのかかわり合いのなかで、私たちの祖先が歴史的に地域での産業、生活、文化を築いてきました。その有形無形の歴史的遺産もまた個性を形づくる重要な要素です。さらに、これらを土台にして現代の私たち住民の生活があります。そこでの経済、政治、文化活動のあり方は、地域の個性を形づくる能動的な要素です。しかも、市町村という基礎自治体は、財政を活用して、住民の生活にかかわるあらゆる分野において行政サービスや公共投資、支出をおこなっている、極めて重要な地域づくりの主体であり、その自治体の施策の内容もまた、地域の個性を規定する大きな主体的要素であると言えます。
そしてこの自治体の主権者は私たち住民であるわけですから、地域の経済、文化活動の担い手としての役割も併せて考えると、結局は、一人ひとりの住民が、地域の個性を自覚的に創りだすことのできる決定的な主体であるといえます。その『自覚』は住民が地域の個性を知り、学ぶことから始まるわけです。
地域づくりの先進地を訪ねると、共通して発見できることがあります。それは、地域づくりの出発点に、住民による『学び』があり、地域の個性を知るとりくみがあることです。
次回・・・『個』を大事にする~長野県栄村~
『個』を大事にする ~長野県栄村~
長野県栄村は、豪雪地帯と地域づくりで有名な山村です。この村で、1988年から村長を務めている髙橋彦芳さんは『個を大事にする』ことを理念にして、村づくりをすすめてきました。栄村も、高橋さんが村長になるまで、国や県の言うとおりの農政や企業誘致政策を展開してきましたが、かえって農林業が衰退して過疎化が進行、村民は元気を失っていきました。
髙橋さんは、国や県の猫の目のように変わる政策に追従するのではなく、足元の地域の個性を掴むことで、栄村にあった地域づくりのあり方を、住民とともに探っていきます。高橋さんは、村の職員でしたが、長年公民館職員として社会教育の分野で活躍していました。
そこで、青年や女性、農民の人たちと一緒に、栄村の自然や歴史、農林業の特徴などを学んだ経験がありました。村長になってからは、村外の専門家を呼ぶだけでなく、農家の廃屋を利用した『ふるさとの家』で村民とともに都市の人々と懇親を深め、栄村の長所や短所を学んでいきます。その成果は、地域の個性に対応し、しかも住民づくりに主体的にとりくんでいくユニークな村の単独事業に結びついていきました。
続く・・・『ココ学』を究める ~大分県・由布院~