今回は前回に続きヒト・モノ・カネのうち、なりわい経営に大事なヒト・モノの競争力を取り上げます。今回取材で取り上げるのはヒトではマンパワーであり、モノでは店という舞台演出ということです。
ヒトの非価格競争力その3 マンパワー・とりわけガッツ
なりわい経営はヒトで成り立ち、その人的資源=マンパワーは、中小業者のたくましさ・ガッツで成り立ちます。このことを感じさせる古い知り合いがいます。この人はぬいぐるみの製造会社が倒産し賃金を得るために、ぬいぐるみを全国に行商するなかで、そのクリーニングを思い立ち、特殊クリーニングの世界に飛び込みました。特殊クリーニングとは絨毯・カーペットなどの大型のもの、革製品や和服など洗濯が難しいものを専門に扱う業種です。
今から30数年前に洋風化の波が住居に押しよせ、大きなモノを洗う需要が発生しました。ところがこの需要、季節が夏場に集中し経営として安定させることが難しく同業者が次々と廃業したそうです。いかに経営を安定させるか季節を通して取れる仕事をつくるしかありませんが、そこで目をつけたのがブランドなどの革製品と和服でした。こういうものは町のクリーニング店では『難しい』と断っていましたが、それを一手に引き受けたのがリスクを恐れぬこの人の中小業者としてのガッツでした。
なかでもブランド品やぬいぐるみなどの愛着ある品物の洗濯は損害賠償を恐れて手を出す人は圧倒的少数でした。特に最近のブランド品は皮だけでなく布の部分が増えていて余計難しくなっています。こういうものを一つひとつ手で水洗いして汚れを落とす。力もいるがそれをガッツで乗り越える。こうして今や650軒のクリーニング店から注文が入る信用を確立しています。クリーニング店の方も、客の注文になんでも応えると客の信用を拡大しています。
「失敗したらどうしよう」と誰もが躊躇しますが、「失うものは自分だけ」のなりわい経営だから「このリスクに挑戦できた」と、この人は言います。この人は商売を始めて民商に入ったころ、子どもを難病で亡くしています。子どもの手術で血液が必要と言われ、民商なら会員も多くなんとかなると思い訴えました。ところが民商からの献血は1件もなかったのです。子どもは亡くなり、普通なら民商にも失望するところですが、この人は逆に「こんな民商ではアカン」「自分がなんとかしてやる」と決意して、民商三役に名乗り出ました。そして当時、千数百万円もあった民商の未収克服の運動の先頭に立ちます。何事も問題を正面からとらえ、前向きに乗り越えるガッツが、なりわい経営の最大の人的資源=マンパワーだという例です。
次回・・・ヒトの非価格競争力その4 マンパワーはガッツのもう一例PR