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04 . September
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10 . June
『ココ学』を究める~大分県・由布院~

 NHKの朝のテレビ小説「風のハルカ」の舞台となった大分県・由布院(現・由布市)も、地域づくりの先進地で有名です。今では年間400万人近い観光客が訪問する日本有数の人気温泉地です。しかし、30年~40年前までは、ただの田舎の温泉地にすぎませんでした。しかも、1975年に地震災害に襲われ、温泉地としての危機を迎えます。このころから、中谷健太郎さんや溝口薫平さんら旅館の若いリーダーたちが中心となって、町づくり運動を展開していきます。彼らは「湯布院の自然を守る会」(後の「明日の由布院を考える会」)をつくります。地縁や職種、階層を超えた幅広い分野の住民が自主的に集まり、湯布院の自然や観光資源、農業について学び、将来の町づくりの方向性を定めていったのです。当時年4回発行された機関誌『花水樹』には、その学びと議論の過程が記録されており、復刻版は現代の若い世代に読みつがれています。

 中谷さんたちが、多くの借金をしておこなった西ドイツの先進地調査も踏まえて得た結論は、「もっとも住みよい町こそ優れた観光地である」ということであり、豊な自然と温泉、そこに住む人々の充実し落ち着いた生活が、湯布院の最大の観光資源であると考え、「クアオルト(健康温泉地)構想」を由布院町(当時)と協力しながらすすめていきました。一方で、外部資本の進出を『潤いのある町づくり条例』のどで規制しながら、他方で由布院の自然や景観を守るために、農林業の恵みを高級旅館も含めて食材として活用し、映画祭、音楽祭などの手作りイベントを30年以上にわたって実施し、町の保健センター職員の努力によって温泉を使った健康事業を生み出すなどの努力を積み重ねてきました。

 その成果をさらに発展させるべきときに市町村合併の嵐が吹き荒れます。中谷さんたちが自立をめざす運動をしたにもかかわらず、結果的に自治体としての由布院町はなくなり、由布市になってしまいました。けれども、中谷さんたちは、落ち込んでばかりいませんでした。合併によって、かえって行政領域と生活領域の違いがはっきりみえるようになったとして、自分たちの生活領域である由布院盆地で、地域づくりを自分たちの力でさらに展開しようと新たな挑戦をはじめています。その手始めが『風のハルカ』であり、農・観・旅の三者の連携の強化を目標としています。由布院盆地の自然の恵みが生み出した有機農業の生産物を旅館が率先して買い入れ、素材を活かした料理法で調理し、旬そのものを豊に食して肉体的にも精神的にも健康を維持、回復できる場をつくるというものです。そのために、農協やNPO法人との連携も強めています。

 「地産地消」がいたるところで重視されるようになりましたが、これは単に大量生産・大量販売方式による市場出荷型の農業・農協経営が行き詰まり、新たに市場として地域内市場が注目されるようになったとこから説明されるものではありません。『医食同源』という言葉にもあるように、その地域に適合した安全安心な農林水産物が、自然の一部としての人間の生命力とその健康を育む源泉となっていることが、明らかになってきたからではないでしょうか。しかも、旬の食材は、とれたての場所で食べるのが最も美味しいわけです。由布院の人々は、温泉という地域固有の自然資源とともに、この点にいち早く気づき、地域づくりをすすめてきたからこそ、その先端を走ったといえます。そして、その学びの意欲は、今も衰えていませんん。中谷さんは、最近『ココ学』を究めたいと考えています。『ココ』すなわち自分が住んでいる場である足元の地域のことを、いっそう深く、広く把握したいということです。私は『地域学』と呼んでいますが、個々の地域の個性を究めることが何よも重要であり、それは尽きることのない奥深いテーマであることを、地域づくりのリーダーから改めて教わった次第です。

次回・・・『豊かさ』を問い直す
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30 . June

人の非価格競争力 その4 マンパワーはガッツのもう一例

 今月会ったもうひとりからも中小業者の経営の原点を教わりました。この工場はどこにでもある金型工場です。経営者親子プラス2人の職人で、主にゴム製品をつくる金型の受注生産をしています。受注生産の下請けだけでは先がないと、自社の金型で油圧・空気圧用のゴムパッキングとOリングの製造販売に乗り出しました。これがうまくいき従業員も30人を超すまでの企業規模に発展していきます。しかしこの会社の原点はなんといっても金型生産です。金型生産での非価格競争力は、なりわい経営に多いガッツあるマンパワーにあります。取引先がこの会社に仕事をだすのは納期に絶対に責任を持ち、製品を相手が納得するまで仕上げる信用力にあります。そのためにはどんな無理な注文にも応える『相手の立場に立った』やる気・ガッツが客を引き寄せます。

 筆者が訪問したのは金曜日ですが、この日も月曜に船がでるから、残業代や休日出勤費用は出すから(これは当然断ったようです)、土日に間に合わせて欲しいとの無茶な注文があり、その体制を組んでおられました。客があってのやりがいだからと従業員も当てにされることを喜んでいます。少ない人数のうちはそうでも、30人になってその体制が組めますかと聞くと、工場は大きくなっても原点は変わらないことをみんな理解していると言います。そのために会計を含めてあらゆる情報を従業員に公開し風通しをよくして、家族的ななりわい経営のよさである相手の立場に立ったガッツ・頑張りの重要性を強調しておられました。

 さて自社製品の製造販売ですが、ゴムの部品加工には困難が多いのです。ゴムは温度で寸法が変わり、そのため金型の製造にも気を使います。不都合だとすぐに手直しが必要で、そのために自社金型が強みになります。その上ゴムの材質自身が日進月歩で研究が欠かせません。製品となるとコスト競争・価格競争も避けられません。そのため、このたび労賃の安い中国に自社専門の金型工場を出す予定だそうです。企業化すれば、たちまちカネの競争に巻き込まれる典型です。前日に中国から帰られた専務によると、もう中国から撤退する企業ばかりで、今から行く人は珍しいと言いながら、自社製品を持つためにコスト競争をせざるを得ない事情を語られました。


次回・・・モノの非価格競争力 その3 店の演出

30 . June
『豊かさ』を問い直す

 高橋彦芳村長や中谷健太郎さんの話や地域づくりのとりくみの歴史を聞いていると、その目標が、世上で言われる金銭的な『豊かさ』ではなく、自然とともに共生する人間的な『豊かさ』を、住民一人ひとりが実感できるところにおかれている点でも共通していることが分かります。

 立派な道路やハイテクの工場、きらびやかな高層ホテルができたとしても、その地域に住む人々の暮らしが成り立たなくなったり、向上しなかったとしたら、それははたして『豊になった』と表現できるのか。このような、高度経済成長期以来の日本の政財界がつくりだした大企業本位の「成長神話」に基づく価値観に対して、地域にしっかりと腰をすえ、そこに住む住民の視点から、自然とのかかわり合い、人間と人間とのかかわり合いにおける物質的、精神的豊かさの総体を追求すべきであるという人間本位の価値観が対置されているといえます。

 しかも、そのことを表現する言葉づかいも実に人間味たっぷりで、温かみがあります。高橋彦芳村長は、「一人ひとりが輝く村づくり」を掲げています。最初の村長選挙の際に掲げた公約は、「住民がもっている知恵や技術を生かし、育てることを大切にする住民自治の村政」「住民がふるさとの自然や文化に誇りをもち、明るく活動することを大切にする村政」「高齢化、結婚難、就労、健康問題などの生活不安にとりくみあたたかみのある村政」でした。一部の多国籍企業の利益の最大化を追求し、それを支援する国家にすべきであるという現在の財政界の言う『グローバル国家』の考え方とは、真っ向から対立する、一人ひとりの住民の人間らしい生活の実現をうたっている点は目が覚める思いがします。

 若いころの中谷さんが、『花水樹』の創刊にあたって記した言葉も印象的です。「由布院の町がどんな産業を持ち、どんな文化を形成しうるかということは、すなわち私たち由布院に住む者が、あなたが、私が、どんな産業を望み、どんな家に住みたいと思い、どんな食べ物がおいしいと感じ、どんな生き方を好ましいと考えるか、要するに私たちがどうように生きるかにかかっていると思うのです。」そして、由布院の美しさの正体を見極め、それが分かったときには、命がけで『美の根源』を守り育てていくべきであり、「それだけが私たちが子孫に残してやれる大きな遺産になる筈です」と述べています。

 地域づくりは、まさに個々の住民の人間としての生き方が問われるものであり、自覚した個が連帯、協同することに加え、個としての住民が組織化する自治体の力も活用することによって、地域全体としての美しさも創造、継承されるというこどではないでしょうか。

 もっとも地域づくりが人間の生き方の問題であるとしても、肩の凝るような難しいことではありません。高橋村長や中谷さんをはじめ、地域づくりにとりくんでいる人々は、常に周りの人々と語り合い、知識や情報を吸収し、突拍子もないホラ話や夢物語をし、おいしい料理屋酒を愉しみ、実に生き生きとした魅力たっぷりな人物たちです。

次回・・・地域の『宝物』を探し、つなぎあうとりくみ
10 . July
モノの非価格競争力 その3 店の演出

 なりわい経営は伝統に胡坐をかいてものごとに安住する存在ではありません。いまの時代は流れが早く、とりわけ消費については次々とトレンドが形成されるなかで、このトレンドを無視して経営の発展はありません。それどころかトレンドの先を行くぐらいの時代に対する感性を求められているのです。この感性を発揮する場所が店であり、店はあなたの才覚のステージであり舞台です。なりわい経営ではあなたの個性がそのまま店に反映し、店を彩ります。この間訪問したなかから、そんな演出の一例を紹介します。

 串揚げの店の演出

 大阪の都心近くにある若者向けのおしゃれな串揚げ屋を訪問しました。ここでは店をステージと見立てその舞台で演出することの大事さを学びました。まず店に入ると、いまの流行の照明の工夫に気がつきます。全体を暗く浮き立たせるところにだけ光を当てることによって、狭い店ながら周りの客が気にならない個室感を出しています。この店の売りは若者向けの低価格のコース料理です。テーブルに着くと割りばしを3倍ぐらいにした棒が置いてあります。客はなんだろうと手にとって見ているが分かりません。実は串揚げのコース用の大皿を斜めにする置き台ですが、客に待つ時間の話題を提供する仕掛けになっています。コースを注文すると大皿にキャベツが山盛りにきます。これだけで若い女の子は、「なんてヘルシー」となります。誘った男も当然気に入ります。要するに、なんでもない、ちょっとした仕掛けで話題とサプライズを演出しています。それによって店が舞台という装置にかわり、そのステージで客との一体感が演出されます。なんでもないことですが繁盛店にはこうした仕掛けが用意されているようです。
 
 この店も民商の商工交流会で報告され、みんなのアイデアのヒントとなっていますが、こういう店をステージ化する演出のヒントは、話し合えばいくらでも出てくるということです。

次回・・・ステージ演出のあの手この手
10 . July
 地域の『宝物』とは?

 前回は、地域づくりの出発点となる、地域の個性を知ることの重要性について述べました。今回は、地域の個性を形づくる『宝物』の探し方と活かし方について、より詳しく見ていきたいと思います。

 ここでいう『宝物』とは、一般に地域資源と言われるものです。例えば、由布院でいえば、由布岳の麓に広がる素晴らしい自然景観、のどかな農村景観、心も身体も癒される温泉、豊後牛や地元産の新鮮な野菜などの特産物が頭に浮かびます。

 けれども、これらの『宝物』の名前を挙げただけでは、地域づくりには結びつきません。大切なことは、それらの自然景観や農村景観、街並み、特産物、温泉といった『宝物』を、日々維持し、再生産している主体を、できるだけたくさんの仲間で発見しあうということです。その主体は、個人経営や民間企業、農家、共同組合、NPO、地方自治体であり、最終的にはそれらを担っている一人ひとりの人間であると言えます。

 このような主体が、日々、工夫しながらこだわりの一品を作ったり、ユニークなサービスを開発したり、あるいは共同で地域の景観を守るとりくみをおこなったり、さらには自治体とともに乱開発から自然景観を守る条例を制定、運用したり、あるいは自治体が独自の産業支援政策を展開したりして、それぞれの地域社会が、個性をもちながら存続しているのです。

 さらに地域のなかには、他の地域から移ってきた『よそ者』と言われる人たちも多く存在しています。「2007年問題」という言葉がありますが、団塊の世代がまとまって退職し、地域での活躍が期待できる有能、有為な人々が、今後増えていきます。潜在的な『宝物』をもった彼ら、彼女らの存在も、新たな地域づくりの主体として大いに期待できます。

 けれども、私たちは、日常生活に追われているため、地域の『宝物』とつくり出している事業所や農家、人々についてはほとんど知らないか、友達つきあいや取引関係のつながりを通して断片的に知っているにすぎません。まさに『灯台下暗し』の状況です。

次回・・・「宝物」探しの技法 交流と学習
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