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07 . September
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16 . September

長野県栄村との出会い
 
 バブル崩壊のころ、京都に移り、やはり調査を通して、ある地域との決定的な出会いがありました。長野県栄村です。

 もともとは、京都府農業会議での仕事で、当時京都府内において最も高齢化率が高かった大江町(現・福知山市)で実施した調査がきっかけでした。大江町は京都府北部にあり、大江山の鬼伝説という無形の歴史資源を活かした、ユニークな地域づくりを展開していました。宿泊施設や鬼の交流博物館、鬼瓦公園の建設、世界鬼学会の設立をおこない、全国的に注目されていたのですが、ハコモノが建設される一方で働く場が増えていないという悩みにつきあたっていました。

 また、第三セクターで観光開発をしようとしていましたが、特産品を作る経済主体がほとんどなく、経営的にも展望が見えない状況でした。しかも、高齢者率が高まっており、町としてどのような地域づくりをしたらいいのかを考えなければならない時期に差しかかっていました。

 この大江町の調査を通して、いかに公共投資をおこなってハコモノをたくさん建設しても、地域の働く場が増え住民の生活が向上しなければ、地域が豊かになったとはいえないのではないかという考え方が固まっていきました。しかも、高齢者の生活調査を通して、無年金世帯の存在や、国民年金と厚生年金・共済年金との格差を知ることにもなりましたし、年金総額が町財政の3分の1にも相当し、それが町の小売業、福祉サービス業、タクシー業、建設業に支払われることにより、町の経済や雇用が支えられているという「年金経済」の存在を見出すこともできました。

 産業振興だけでなく、高齢者や子供を含む住民全体の生活の向上のために、何が必要なのかということを明らかにしなければならないと思うようになりました。産業と生活、この両者を総合した地域経済学が必要だと考えるようになったわけです。そして、第3セクターを生かした地域づくりの先進地として、大江町の比較のために訪問したのが、栄町でした。

次回・・・長野県栄村との出会い②

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17 . September
長野県栄村との出会い②

 1月そうそうに訪れた初めての栄村は、雪のなかでまぶしく輝いていました。調査で聞く話は驚きと納得の連続でした。 田直し事業と名づけられた圃場整備事業は、国の補助金事業でおこなうと10アール当たり200万円を優に超える事業費を、村単独事業でおこなうこよにより、40万円に圧縮し、しかもそのうち20万円を村が支援するというものであり、工事は村の建設業者にオペレーター契約で発注するというものでした。
 詳しくは、次回に改めて述べたいと思いますが、下水道整備事業も、生活道路整備事業も、できるだけ村財政や家計の負担を減らしながら、村内の業者や住民に仕事をまわし、所得を増やすことが目的とされていました。高橋彦芳村長は、これを「内部循環型経済」という言葉を使って表現しています。

 栄村では、戦前から企業誘致政策や国の補助金事業による公共事業をおこなってきましたが、それによって村民が豊かになることはなく、むしろ過疎化が進行したり、財政的に厳しい状況になっていました。これを反省し、足元にある地域の個性を大切にし、一人ひとりの住民の生活の向上を第一にした政策へと転換したのでした。

 第3セクターである栄村振興公社の経営方針もユニークでした。村の生産者(団体)がつくる特産品や加工品を、手数料なしで買い入れ、販売するというものでした。また、公社が経営する宿泊施設では、村内の農家がつくる食材を買い入れるだけでなく、お酒などの飲料も定価で村内にある複数の酒屋さんから順番に購入していました。

 世間では、バブル崩壊後の第3セクター会社の経営破たんが相次いでおり、「そんな事をしていると赤字になってしまうのではないですか」と思わず聞いてしまいました。

 これに対して、公社の担当者の方は、「村長はじめ私たちは、公社は公益事業としてやっているのであり、住民の利益になるなら赤字になっても構わないという姿勢です。村の酒屋さんは、単に酒を売っているだけではありません。集落の中にあって、毎日、一人暮らしの高齢者が元気に過ごしているかをチェックし、異常があれば保健センターに連絡してもらうという、準公共的な役割を果たしてもらっています」と言い切りました。

 阪神大震災の折、下町の商店主やおかみさんが、崩壊したアパートの住民をいち早く救援し、 コミュニティーの核になっていたことを改めて思い出しました。さらに、後日送っていただいた公社の経営データを見て、さらに驚いてしまいました。村内からの調達率が7割を超え、住民1人当たりで 見ると20万円近くを毎日キャシュバックしている計算になるうえ、なんと単年度黒字経営だったのです。  

次回・・・地域経済の主役
17 . September
今月のワンポイント 創業昭和○年
 
 世の中、レトロが受けています。レトロといっても昭和30年代のことです。日本で工業化・近代化がいっせいにスタートし現代社会の原型が見えるから、この年代がおもしろいのでしょう。なりわい経営に古いよさは欠かせません。古さは当事者には実感できにくいものですが、はたからはよく見えるものです。状況から見て、昭和、それも戦後でも創業何年を打ち出してもいいのではないでしょうか。  



次回・・・下請けのなりわい経営
17 . September
地域経済の主役

 私は、この栄村での調査を通して、地域のなかで、投資を繰り返しおこない、そこで雇用や所得を生み出し、地域内に循環させていく力を、自治体と地域の住民、企業が協同して、いかに創っていくかということこそ、重要なことではないかと考えるようになりました。

 そのように見ると、地域には、さまざまな経済主体が存在し、それらが毎年、投資を繰り返していることが再確認できました。民間企業、個人経営、農家、協同組合、NPO、そして自治体も、その中に入ります。
 
 ちょうど、大企業の海外進出が相次ぎ、公共事業の経済効果の限界が明確になりつつある時代において、地域経済の主役が浮き出てきたわけです。そこで、思い浮かんだのが「地域内再投資力」という言葉でした。地域に根ざし、毎年の利益を再び地域に投下し、雇用や所得を持続させる力を表現しています。いわば、域外企業に頼ったり、一過性で地元企業を潤すことのない公共事業依存型の開発政策への反省を込めた表現だといえます。
  
 ちなみに、大江町では、栄村のとりくみに刺激された住民や町職員が、「大江で地酒を造る会」というグループをつくって、さっそく荒廃しかけていた棚田を借りて、都市の市民たちと交流しながら酒米をつくり、これを「大鬼」というお酒にして、地元の商店のみが販売する試みを開始いました。コクがあり、美味しい「幻の酒」として人気がでたのですが、大江町の方は「平成の大合併」の嵐に巻き込まれ、住民の激しい反対運動にもかかわらず隣の福知山市に合併されてしまいました。

 もし、自立した町として存続していれば、もっと地域住民が元気になれる地域になったのではないかと、残念な思いです。

 
次回・・・栄村の地域づくりに学ぶ① 何をどのように学ぶか
25 . September
 栄村の地域づくりに学ぶ① 何をどのように学ぶか

 これまで、たびたび長野県栄村の地域づくりの話を紹介してきました。連載のテーマにある「一人ひとりが輝く」という言葉も、実は、栄村の高橋彦芳村長から教えてもらった言葉です。少数の「勝ち組」企業が活性化すればいいという安易な考え方ではなく、住民誰もが、一人ひとりの個性に合わせて、輝くような地域づくりをしなければならないという思想が埋め込まれた言葉であるといえます。けれども、言葉がすぐれているだけでは意味がありません。実際に、それを現実にしつつあるところに、栄村の地域づくりのすばらしさがあります。

 ところで、講演で栄村の話をすると、ほぼ必ず出てくる質問がありなす。ひとつは、「栄村のとりくみは、高橋彦芳村長という優れたリーダーがいたからうまくいっているのではないか」という質問です。このような質問を、私は「リーダー待望論」と名づけています。確かに、高橋村長は、すばらしい人物で、私は日本の首相にふさわしい人だと、本気で思っています。しかし、高橋さんとて、最初からリーダーであったわけではありませんし、彼の周囲には、同じ志をもって地域づくりにとりくむ仲間たちがたくさんおり、おたがいに議論したり行動したりするうちに、今日のような評価を受けるようになったのではないかと思います。私は、誰もが、リーダーになりうるし、それぞれの個性を生かして地域づくりのネットワークを広げていけばいくほど地域も元気になるので、「あなた自身が動き始めてください」と、「リーダー待望論」(裏返しの「リーダーがいない自分たちの地域はだめだ論」)者に答えるようにしています。
 もう一つの質問は、「栄村は特殊な一山村の事例であり、それ以外の農村や都市ではあてはまらないのではないか」というものです。これを、私は「栄村例外論」と呼んでいます。たしかに、栄村の地域づくりは、山村の豪雪地帯だからこその個性的なものだといえます。しかし、問題は、その地域づくりのとりくみのなかに潜む普遍性をいかにくみとるかというところにあります。企業経営の場合もそうですが、よく「○○すれば成功する」という「ビジネスモデル」が紹介され、それを適用すれば経営は成功するというような考え方があります。しかし、このような「形だけのモノマネ」では、企業経営が成功するはずはありません。問題は、自分の企業の個性をどのようにとらえ、成功したといわれる企業経営から何を学ぶか、しっかりと自分の頭で考える必要があります。

 これと同じように、地域づくりについても、成功したといわれる事例を、そのままモノマネしても、うまくいくはずがありません。もう一歩踏み込んで、典型的な事例のなかから、自分の経営や地域と比較しながら、主体的に何を学びとるかという姿勢こそ大切だといえます。

 さて、前置きが長くなってしまいました。栄町の地域づくりにおいて、何を学ぶべきか、私が考えてきたことをお話していきたいと思います。

次回・・・「ふるさとの家」をきっかけにした個性の発見
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