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08 . September
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14 . October
 自治体の公共事業を住民のものに 1

 第2の学ぶべき点は、村の公共事業が、住民のために工夫しながら行われていることです。その代表例が、有名な「田直し事業」です。田んぼの圃場整備をおこなう事業ですが、平場の農村では通常農林水産省の補助金を使っておこなわれていますが、栄村では村の単独事業でおこなっており国の補助金は使っていません。それには、いくつもの理由があります。ひとつは、栄村の農地の特殊性によります。栄村は、村全体が山村であり棚田や谷田が多く、まとまった平坦な圃場はほとんどありません。農林水産省の補助金事業で建設工事をおこなうと、反(10アール)当たり200万円を超えてしまうほか、傾斜地の法面が多くなるために実際の圃場が狭くなるという問題がありました。補助金事業は、100%国や県がお金を出すわけではなく、土地保有者である農家も自己負担しなければなりません。しかも、補助事業の多くは地域外の大手建設業者が受注することになります。

 ところが、栄村の農家の高齢化率は60%を超えており、多額の借金をすることは不可能なことでした。他方で、高齢化がすすむなかで、農作業をするために機械を入れたいという要求も強く存在していました。それを解決するための妙案が、村の単独事業でおこなう「田直し事業」でした。高橋村長の友人でもあった広瀬進村会議員が、隣接している新潟県・津南町で古くからおこなわれていた農民主導の圃場整備事業にヒントを得て、提案したものです。夏場に、農家と村の担当職員、そして建設業者の三者が圃場に立って、どのような工事にするのかを決めます。その際、設計料はとりません。通常の補助金事業では、事業費の1割近くが設計料となっていますが、それが節約できるわけです。

 また、圃場整備工事そのものは、冬場除雪に使っている村の重機を活用し、建設業者はオペレーター契約で雇われています。これで、反当たり最高40万円に抑えることができました。また、そのうち20万円を村が補助し、残りの20万円を1年据え置き、5年償還で返す返済システムをつくりました。栄村はコシヒカリが大変美味しいところで、しかも反当たり平均8俵とれるところです。米価が高かったころは、このうち毎年2俵を返済にあてればいい計算になり、借金の負担も大きく軽減され、多くの農家が田直し事業に参加しました。

 この田直し事業は、補助金による大規模圃場整備事業と比較して、いくつもの効果を生み出しています。ひとつは、農家の家計と村財政の負担を大きく軽減したことです。また、村内の建設業者に工事が発注されることにより、村の支出が地域内に循環し、建設業者の投資力と担税力を高めることになりました。さらに、圃場整備をおこなった結果、稲作の共同作業を始める集落が生まれたり、村が生産資材を支援したこともありチンゲン菜やホウレン草などの軽量野菜、菌茸類の出荷額が増えて、農家1戸あたりの農業生産額が県平均を上回るようになったりしました。つまり、農家の投資力を高める効果も生み出したのです。

次回・・・自治体の公共事業を住民のものに 2
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15 . October
自治体の公共事業を住民のものに 2

 同様の工夫は、下水道整備事業や生活道路の整備事業についてもおこなわれています。広い土地に集落が点在する栄村では、中心集落地域を除いて、農林水産省の補助金による下水道整備事業は、財政面からみても、家計負担の面からみても困難でした。しかし、村民の多くは、下水道の普及を心待ちにしていました。そこで考えたのが、建設・管理コストが安くつく合併浄化槽方式です。

 ここまでは、今では日本のあちこちで見られることです。栄村では、もうひと工夫します。この合併浄化槽の建設と管理ができる村内業者に集まってもらい、共同の有限会社「環境さかえ」をつくります。この会社に、合併浄化槽の建設と管理を受注させるシステムです。これによって、放っておけば、地域外の大手下水道業者が請け負ったと考えられる下水道事業の支出を、村内の関係業者に循環するシステムをつくったわけです。もちろん、これは一部企業と裏で取引するという談合的なものではなく、透明な契約形態による、財政支出の地域内経済循環の組織化であるといえます。

 地方自治体の公共事業は、昨年来のいくつかの県知事の逮捕等に示されるような特定会社との癒着や談合という問題だけでなく、地域経済への波及効果がすくなく、大手ゼネコンに仕事が集中し、地方自治体の貴重な財源が域外に流出するという大きな問題があります。また、ダンピングによって、地元の建設業者や従業員がとても経営や家計を維持できない水準にまで、入札価格が落ちています。

 現在、各地で公契約条例を制定したり、中小企業振興基本条例を制定したりして、経費や賃金を適正な水準に維持するとともに、地域貢献や環境貢献を重視した入札制度の導入を求める運動が展開しつつあります。都市部でも、地方自治体の公共投資のあり方を点検するとともに、栄村の公共事業のような考え方で、何よりも地元地域の住民や経営体を重視した方向に展開することは、工夫次第で可能であるといえます。

次回・・・栄村の地域づくりに学ぶ② 内部循環型をつくる
20 . October
③納期・品質・将来性で勝負

 ○○○の仕事を従業員6人の小さななりわい経営が請けているのも珍しいが、もちろん苦労も多い。それは納期と品質と取引先が求める経営力の確保です。工場には10台のNC工作機が並んでいます。これらの機械はほとんど自動で働き続けます。2台に1人がついて出来上がった品物を取り出し次の材料を供給する。この仕事は昨日入った人でもすぐに覚えられるので、この工場ではここに20代30代の若い正社員を投入しています。このことが親企業が「やる気」を見るポイントとなっているのです。難しいのは機械にデータを入力する作業と材料を固定し旋盤の回転に耐えさせるための軸の製作です。
 
 特にこの軸の製作は一つひとつ寸法も違い汎用旋盤に頼らざる得ません。ところが今は汎用旋盤を自由に使う人がいない。これをMさんひとりでこなしています。納期はどんなことがあっても守る根性が必要です。そのために昔は社長が朝5時から工場に出ていたこともありました。品質のチェックもますますやかましく、そのために専門の女性を入れるようになりました。単価に文句はないが、設備投資関連特有の好不況の仕事の波の大きさと、いつもクレームが出たらどうしようと精神的に追い掛け回されるゆとりのなさ、それを通じてこの仕事を完成させたときの充実感、ものづくりの楽しさを味わう余裕がないことへの不満がいつも付きまといます。

 今の時代は納期と品質がすべてだと分かっていますが、それでもチェックされるだけでなく、たまには創造的な面で役割を発揮したいと言います。そんな悩みを口にされるのは、管理社会と管理教育に反発して中学しか卒業せず、職人として自由に生きてきた野性のたくましさがこの人の持ち味だからと理解できるのです。

次回・・・下請けの非価格競争力2 ベアリングのT鉄工所
20 . October
ベアリングのT鉄工所

 同じく長年の知り合いにT鉄工所のTさんがいます。Tさんは地場産業で多くいたベアリング製造業者です。ベアリングは機械の動く部分、接続部分に必ず必要な部品です。この部品はロボットのように機械の高度な動きが増えるたびに数も増えますが、一方でますますベアリングも高度で複雑になり、しかも動きがある部分だけに精密さが要求されます。このなかで数多くあったベアリング工場も淘汰され、過当競争もあって小さなところは次々に廃業に追い込まれました。T鉄工所は小さな工場を夫婦2人で営んでいます。それでも仕事が絶えないのは段取りのよさと時代の動きを先取りした設備投資で取引先の信用を勝ち取っているからです。
 
 納屋にはNC設備とロボットが所狭しと備えられ、1日中無人で仕事をしています。人出は段取りと検査だけです。この合理化が夫婦で月商300万円近くを稼ぐ原動力です。最近おこなった難しい仕事ではT自動車のハンドルの自動調整装置とか、M電器の室内給湯器とも湯機の部分とかを扱いました。こうゆう一流メーカーの仕事がとにかくやってくれと入ってきます。しかしTさんのところでこなせるのは月産2万個が限度です。ハンドルの場合高級車から大衆車にこの装置が広まると数が増えて、とてもできないので仕事が全部なくなります。給湯器も増えてくると切削からプレスに変わって仕事がなくなります。そういう意味では大量生産までのつなぎの役割をTさんのところではしていることになります。

 こうした小回りの効く仕事に優位性を見出し生きていっています。現在どこでもと思いますが検品の要求が非常に強まっています。ベアリングの軸受けでも精度が0.03ミリを要求されます。軸受けが軽く薄くなると温度でも自然にゆがみが生じます。このゆがみを発見するのも下請けの役割に加えられてきます。この見た目では分からない精度を感知する検査機を買えばあるのですが、いつまで続くか分からない仕事に何百万もかけるのはもったいない。そこで小さな卓上の検査機を自社で開発しています。

 経営はいくら忙しくても人を入れずコスト高にしないことに優位性を見出しています。この優位性があるから有力な仕事でも量が増えれば「よそに持って行ってくれ」と余裕でいられるのです。自社の長所は技術も設備も小回り力と割り切って、ぎりぎりまで合理化をすすめながら量産に走らない戦略をとっています。これが夫婦2人のなりわい経営の極意なのです。

次回・・・下請けの非価格競争力3 S金型製作所
20 . October
S金型製作所

 「3000万円を前払いするから3年から4年先までに商品化してくれればいい」という注文がA社から入ったのは日本の製造業の中国進出が真っ盛りのときでした。そのほかにも中国へ進出済みで重・建築機械メーカーの一時下請けのB社からも、住宅建造物の部材メーカーであり、大手ハウスメーカーから受注するC社も、ともに中国でつくらせた金型が使い物にならず、B社分はS金型製作所で修理しましたがC社は使えないままです。このように大企業の中国進出ラッシュにもびくともせず頑張るS金型製作所は夫婦と従業員2人、全員が熟年のこじんまりした陣容でありながら月商600万円をあげる優秀企業です。ワイヤーカット機やNCフライス盤や旋盤を駆使しプレス用順送り金型やプレス用単発金型を製造します。注文が入るとどう金型に仕上げるか、この構想力がここの熟練の強みです。長年の勘と経験からこの形でこの材質の製品なら何行程で仕上げるか独自に判断して大体間違いません。もちろん自社だけでなく親会社の技術者・再下請け先のノウハウも共有状態にあり設計段階から必要に応じていつでも協力関係が組まれます。ここの強みはこの技術力と納期の早さと正確さです。

 無理な注文に応えるために材料の手当てと半製品の在庫には余念がない。国内のものづくりの優位性を即効にあると考え、注文を受けたらすぐに納品する体制を組んでいます。この機動力と技術力が中国に行った仕事をおつりをつけて取り戻しています。材料や半製品の確保には当然リスクが伴います。このリスクを避けているのが1次・2次の下請け関係と言うよりもネットワーク関係です。その中心を1次下請けが担う新しい下請け関係を見ることができました。複雑で高度化するものづくりには横の協力関係がますます重要になります。現在は産量の時代ではなく少量多品種の時代です。産量の時代には軍隊的な下請け関係が、少量多品種の時代には自律的なネットワークが似合います。こうして必然的に下請け関係からネットワークを目指す1次下請けが増えています。脱下請けの動きが徐々に社会に広まりつつあります。

次回…今月のワンポイント 下請けとリスク管理
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